歴史に学ぶ予防対策について

漢方薬(柴葛解肌湯)を学ぶ中でスペイン風邪がありましたので今回はこのスペイン風邪が流行していた際にどの様な予防をしていたのかについて情報を記載しています。

流行性感冒予防心得

東京では初雪が観測されたりと気温も寒い日が続いています。特に日本海側を中心とした大雪により、一部発送に関しまして集荷停止や一部メーカーからの納品に遅れが生じておりご迷惑をおかけしております。

緊急事態宣言が各地で発令され、新型コロナウイルスも未だに猛威を奮っています。そんな中で、100年ほど前に流行したスペイン風邪の治療に活躍した浅田宗伯先生の弟子である木村博昭先生が処方した柴葛解肌湯 (さいかつげきとう)という漢方薬に関する資料の中で、予防に関する記事がありましたので紹介したいと思います。

スペイン風邪とは?

スペイン風邪とは1918~1919年に発生して全世界に猛威を奮った疫病で、実はH1N1及びその亜型インフルエンザの通称でもあります。スペイン風邪という名称ではありますが、発生した原因は不明で、第一次世界大戦中に中立国であったスペインが感染に対する情報公開をした事に起因しています。( 起因に関しては諸説ありますが判明していません。 )

変異をした影響もあった事から、第3波まで発生し、世界的に歴史上でも最も死者を出したパンデミックの1つでもあります。

日本での影響について

日本では当初は巡業中の力士が原因不明の感染症により死亡し、その後も力士が高熱などにより休場などした事から当初は相撲風邪や力士風邪と呼ばれていました。その数カ月後に日本に上陸した事で主に流行性感冒と言われるようになりました。

当時はインフルエンザという言葉がありませんでしたので言われていた流行性感冒ですが、スペイン風邪が今でいうところでインフルエンザである事が分かります。このスペイン風邪は日本でも多くの死者を出したパンデミックでもありました。

当時の日本での主な対策は…

スペイン風邪が流行した際に日本でも予防対策の心得として主に大衆向けに広報されていたのが、今回ご紹介する大正8年1月内務省衛生局が発布した 「流行性感冒予防心得」というものです。

この流行性感冒予防心得では、どの様に伝搬するか、予防するにはどうするべきか、罹患したらどうするべきか、その他注意するべき点が記載されています。興味深いのはこの記載されている内容は昨今の予防対策として発表されている内容に非常に類似している部分も多いという点です。

予防に対して当時のスペイン風邪とは異なるという部分もあるかとは思いますし、時代的に不可能な部分もありますが、昔の方々がいかにこの流行性感冒に対して危機感を持ってどの様に行動し、対策していったかという内容や重要性を学ぶことができるのではないかと思いましたので紹介させていただきます。

喘息に対する考慮などの記載もありませんし、手洗いなどに関する部分が抜けていたりもしますが、現在での基本は手洗い・うがい・洗顔・換気・ソーシャルディスタンス・ステイホームに対する重要性などに対してもしっかりと述べられていますので参考にしながらしっかりと予防をして参りましょう。

流行性感冒予防心得

大正8年1月内務省衛生局が発布した流行性感冒予防心得の主な内容は以下のとおりです。なお()内は現在の言い方にわかりやすくしています。

1.はやりかぜは如何にして伝染するか

  • はやりかぜは主に人から人に伝染する病気であるかぜ引いた人が咳や嚏をすると眼にも見えない程微細な泡沫が三、四尺周囲に吹き飛ばされ夫れを吸ひ込んだ者は此病に罹る。(罹患した人が咳やくしゃみをすると約1~2m程度飛散する。それを吸い込んだ人は病を患う。)
  • かぜを引いて治つた人も当分の間は鼻の奥や咽頭に此病毒が残つて居り又健康な人の中にも鼻や咽頭に病毒を持て居ることがある是等の人々の咳や嚏の泡沫も病人同様危険である。(健康の人や治癒した人は当分の間はウイルスが残っている可能性があるので咳なども危険である。)

2.罹らぬには

  • 病人又は病人らしい者、咳する者には近寄つてはならぬ(病罹患している、罹患している可能性がある、咳をしている人には近づかない)
  • 病中話などするのは病人の為めでもないから見舞に行つても可成玄関ですますがよい(罹患中に話をするのは罹患者の為ではないので玄関先で済ませるのが良い)
  • 病家では御客様を絶対に病室には案内してはならぬ(罹患している家では訪問者を病室に案内しない)
  • 沢山人の集つて居る所に立ち入るな(人が沢山集まる場所には立ち入るな)
  • 時節柄芝居、寄席、活動写真などには行かぬがよい(芝居、寄席、映画などには行かない)
  • 急用ならざる限りは電車などに乗らずに歩く方が安全である(急用でなければ電車などに乗らずに歩く方が安全)
  • かぜの流行する時節に人に近寄る時は用心して人の咳や嚏の泡沫を吸ひ込まぬ様注意なさい(流行している時には人の咳やくしゃみの飛沫を吸い込まない様に注意する)
  • 人の集つて居る場所、電車、汽車などの内では必ず呼吸保護器(「レスピレーター」、又は「ガーゼマスク」ともいふ)を掛け、それでなくば鼻、口、を「ハンケチ」手拭などで軽く被ひなさい。(人の集まる場所・電車・汽車などの中では必ずマスクをする、もしくはハンカチなどで覆うこと)
  • 「ハンケチ」も手拭もせずに無遠慮に咳する人嚏する人から遠かれ(ハンカチや手で覆わずに遠慮なく咳やくしゃみをする人からは遠ざかる事)
  • 塩水か微温湯にて度々含嗽せよ、含嗽薬なれば尚ほ良し(塩水かぬるま湯でうがいせよ、うがい薬があればなお良い)
  • 食後、寝る前には必ず含嗽を忘れるな(食後や就寝前には必ずうがいをわすれるな)

3.罹つたなら

  • かぜを引いたなと思つたなら直に寝床に潜り込み医師を呼べ(引いたと思ったらすぐに寝て医者を呼ぶ事)
  • 普通のかぜと馬鹿にして売薬療治で安心するな、外出したり、無理をすると肺炎を起し取り返しの着かぬことになる(普通の風邪と馬鹿にして薬で安心しないこと、外出など無理をすると肺炎を起こして取り返しがつかなくなる。)
  • 病人の部屋は可成別にし看護人の外は其の部屋に入れてはならぬ(罹患者の部屋は別にして看護人以外は入れてはいけない)
  • 看護人や家内のものでも病室に入るときは必ず呼吸保護器を掛けよ(看護人や家内のものでも罹患者の部屋などに入るときにはマスクを装着する事)
  • 治つたと思つても医師の許しのある迄は外に出るな(治ったと思ってもい者の許しがあるまで外に出ないこと)
  • 地震の震り返しよりも此病気の再発は怖ろしい(再発は恐ろしい)

4.此外気を付くべきことは

  • 家の内外を清潔に掃除し天気のときは戸障子を開け放て(家を掃除して換気をする事)
  • 室の掃除は可成塵埃の立たざる様に雑布掛けするのが一等(掃除は粉塵が立たないように雑巾がけをするのが良い)
  • 家の周囲は塵埃の立たぬやうに先づ水を撒いて後掃け(家の周囲は水を撒いてから掃くこと)
  • 学校、幼稚園、寄宿舎、工場などでは殊に是等の事に気を付けよ(学校。幼稚園、寄宿舎、工場などではこれらの事に気をつける事)
  • 旅人宿、貸席などは客のない間は日中必ず部屋の障子を開けて置け(宿や貸し部屋などは客がいない時は換気すること)
  • 寝具寝衣などは晴天の日には必ず日に曝せ(寝具やパジャマは日中は天日干しすること)
  • 用心に亡びなし、健康者も用心が肝心(用心しない事、健康であっても用心する事が大切)
  • 幼弱なる子供、老人、持病ある者は殊に用心せよ(子供、老人、持病持ちは特に用心すること)
  • 人前で咳や嚏をするときは公徳を重じ必ず「ハンケチ」か手拭などで鼻、口を被へ(人前で咳やくしゃみをする時は必ずハンカチなどで覆うこと)
  • 病人の喀痰、鼻汁などで汚れたものは焼くか煮るか薬で消毒せよ(罹患者が原因で汚れてしまったものは焼く、煮る、薬で消毒する事)
  • 病室内の汚れたものゝ始末は医師に相談して遺漏ない様にせよ(罹患者が滞在していた部屋の汚れたものを始末する場合は医者に相談してぬかりがない様にする事)

この様に流行性感冒予防心得の内容を拝見すると予防に関しては昔と今でも大きい部分は変わっていない事も多いのではないかと思います。 昔の方々に学びながらも現代に活かせる部分は活かして予防に役立てて参りましょう。

以前に紹介いたしました柴葛解肌湯 (さいかつげきとう) の生みの親でもある浅田宗伯先生の名称は先生の元で学んでいた堀内伊三郎氏が浅田宗伯先生の処方を用いて作っている事から現在ののど飴を浅田飴と命名されて名前が残っている事を考えますといかに偉大な漢方薬の医師であったかを改めて認識させられます。

他にも名前に屏風という文字がある様に風邪を引きやすい方におすすめの玉屏風散(ぎょくへいふうさん)など興味深い漢方薬などもございます。
ぜひ身体にあった漢方薬を使いましょう。
以上、ナガエ薬局ブログでした。